ビースティ・ボーイズのMCA、ガンで亡くなる
http://bmr.jp/news/detail/0000013198.html

驚きました!残念です。。

オルタナティブなひとはそういう視点で彼らを見るかも知れませんが、ヒップホップファンにとっても、Beastie Boysの存在は非常に大きいです。

それまでファンクの焼き直しだったラップ・ミュージックに、ヒップホップ特有のトラックを乗せた最初の功労者は、デフジャムです。アフリカバンバータも、シンセやボコーダーを使った新しいサウンドをトミーボーイで模索していましたが、決定的に新世代の音を作り出し、ヒップホップをアンダーグラウンドからオーバーグラウンドの世界へ引きずり出したのはデフジャムです。Russell Simmons、その後のオルタナティブを率いることになるRick Rubin、すでにDJとして活躍していて、後に自分名義のアルバムもリリースしたDavy D.、そしてLarry Smithなどがこの頃のデフジャムサウンドをデザインしました。

そして、そのデフジャムにおいて、マイナー時代の、いわゆるエンジデフジャム時代の二枚目のシングル、DJ002が、Beastie BoysのRock Hard(1985)でした。(一枚目はもちろん、L.L. Cool JのI Need A Beatです。)

エンジデフジャム時代で、あまり知られていない、特筆すべきシングルは、MCA & Burzootie名義のDrum Machineというシングル。レーベルにはご丁寧に、(MCA of Beastie Boys)って書かれてます。言われなくても分かるよ!!って言いたいところですが、Burzootieって誰?? って感じですよね。

Produced by Jay Burnett って書かれており、このJay Burnett=Burzootieであることがわかります。結構有名だったプロデューサーらしいですけど、、、知りません。その名の通り、ドラム中心のトラックに、シンセサイザーの音を乗せたもの。この上に、MCAがラップしています。CD化されていないので、聞いたことがある人は少ないのでは?


その後リリースされ、ビルボードのアルバムチャートで、ヒップホップとしては初めて1位に輝き、900万枚を売り上げたという大ヒットアルバム、Licensed to Ill(1986)のオルタナティブな香りのするサウンドは、紛れもなく、Rick Rubinの仕業です。この頃のRunDMCと聞き比べれば分かります。サウンドもアルバム構成もそっくりです。プロデューサーが同じなので当たり前です。(ちなみに、アルバムジャケットの表にデフジャムのロゴがプリントされたものは、コンピ盤を除いては、Licensed to Ill(1986)の次は、Ace HoodのGutta(2008)までありませんでした!)


しかし、ヒップホップファンにとって最重要アルバムは、デフジャムを去ってCapitolと契約し、第4のメンバーとも言われたRickRubinとも別れて作られた、Beastie Boysの2nd、Paul's Boutique(1989)でしょう。

この頃、世界初となるステレオデジタルサンプラーが発売されたわけですが、Paul's Boutiqueは、これを使って、今では考えられない大ネタをアルバム全体にわたって多用した、歴史的なアルバムです。アルバム15曲の中で、実に105曲のサンプリングネタが使われているそうです! オルタナティブ路線は全くない、完全なるヒップホップアルバムで、プロデューサーのDust Brothersの特異なるセンスを見ることが出来ます。

そしてその結果、このサンプリングを多用したサウンドが一世を風靡しました。有名なところでは、ニュースクール路線のDe La Soulに代表されるPrince Paulサウンド、Pファンク路線のPublic Enemyに代表されるThe Bomb Squadサウンドなど、その後、著作権問題でこれらにストップがかかり、Dr.DreのGファンクに取って代わられるまで、実に多様なサウンドが作り出されました。その一角を占めるのは紛れもなくPaul's Boutiqueで、3Feet High And Rising(1989 Tommy Boy)や、アメリカ国会図書館の重要保存録音物として永久保存されているFear of A Black Planet(1990 Def Jam)等と共に、ヒップホップの頂点と並び称される、名作中の名作でした。

(ちなみに、Rick Rubinとは袂を分かった彼らが、その後一度だけ、共同作業をしたことがあることはあまり知られていません。Rick Rubinの設立した、American Recordingsからリリースされた、Milkというラッパーの、Never DatedというEP内の曲、Spamという曲がそれ。FuturingでThe King Ad Rockとクレジットされ、ライナーノートには、”The King Ad Rock - Scratches on Spam” ”Mike D. - Drums on Spam”と書かれています。もちろんExecutive ProducerとしてRick Rubinがクレジットされていますから、歴史的な再会だったと思われます。)

このように、オルタナティブだけではなく、ヒップホップとしてもとても重要な位置にいるBeastie BoysのラッパーMCAを失ったことは、ヒップホップ界にとっても大きな悲劇となるでしょう。ご冥福をお祈りいたします。